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ゆき
雪
中谷 宇吉郎
「雪」1938(昭和13)年 11月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,536 字 · 152 页
ことがありそうである。十勝岳ではよく水晶のような六角柱の雪の結晶で両底面に六花の板状結晶がついて丁度鼓のような形になったものが降って来ることがある。そういう結晶は何とかして顕微鏡の下に垂直に立てて、その側面の写真をとりたいのである。色々試みた末、唾を使うのが一番良いということが分った。マッチの軸の先をちょっと舐めて硝子板をそっとつつくと、唾の非常に小さい滴が硝子板の上につく。ところが唾は氷点が低いと見えて暫くは過冷却の状態で液状の微滴のままになっている。そこで今一本のマッチの軸の頭を折ったもので結晶を吊しながら、丁度結晶が垂直に立つようにその一端を唾の滴にふれさせるのである。すると今まで過冷却の状態にあった唾の滴はその瞬間に凍って、結晶は巧く垂直に硝子面に凍りつくのであった。このようにして色々の結晶の側面写真をとって見ると、平面写真ばかり見ていたのではどうしても分らなかったことが、呆気ない位簡単に分って来るのでとても面白かった。
十勝岳の思い出は皆なつかしいことばかりである。冬の深山の晴れた雪の朝位美しいものは少いであろう。登山家やスキー家たちが生命の危険にさらされながらも、冬の山へ出かけてゆく気持がわかるような気がした。