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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
その点を伊東に訊くと、
「記憶していませんが、起きた事は事実です。だがドアには手もかけはいたしません。太い声……それは自分をさしたのだと、思いますが、床に入る迄は誰とも逢いません。まさか寝ぼけたのでもないでしょう……あるいは、おお寒い位の独り言はいったかも知れません、望月君も、他人の事をいうより、あの人こそ、誰にも判らず兇行の出来る所に、寝ているのですし、早川さんの死によって一番利益を受ける人ですからね」と、逆に望月を誹謗している。
早川の老妻常も、
「若し主人が、亡くなった時は、長年家で働いてくれましたので、五千円程の退職金をやろうと思っていました」と証言しているし、又別に最近望月は、素行の点で可成手ひどく、早川に叱責された事実があった。
それは望月が、去年の秋ごろから遊びをおぼえ、年末の払いに窮し早川老人からの委託金を使い込み久三から解雇をいい渡された事であった。
「私が、主人の金を一寸、融通したのは事実ですが、それは三百円ばかりで、その金は近日友達から送って来る事になっています。五千円の退職金の事は、一二度聞かされた事はありますが、気まぐれな御主人の事ですから別に自分としては真に受けてはいませんでした。