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ゆきのうえのしも
雪の上の霜
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页
ただ一つだけ当惑することがあった。というのは、青岳に一人の娘がいて、そのひとが身のまわりの世話をしてくれる。まるで侍女かなんぞのように、起きるから寝るまで、殆んど付きっきりで、しかも、いわゆる痒いところに手の届くといったふうな、心のこもったやり方である。年は(その頃としては)やや老けていて、二十二か三くらいであろう、名は千草といった。
女としては背丈が高く、ひき緊った肉付きの、いい躰格であるし、顔だちもひじょうに美しい。眼と眼のあいだ、眼と眉のあいだがひろく、ゆったりしている。鼻も高い。口は大きいほうである。ぜんたいがぱらっとして、おおまかなつくりであるが、そのままで極めて美しかった。
母親はかなりまえに亡くなったらしい。以来ずっと、父の世話をしていたものとみえ、伊兵衛に対する動作も神経も、じつにおちついて、ゆき届いたものであった。
伊兵衛の部屋は、青岳父娘の住居と同じ棟の、道場に近い六帖二た間であった。片方が寝間で、居間のほうには切炉があり、机とか手文庫とか、用箪笥などが備えてある。床の間にはいつも花が活けてあるし、しばしば千草が来て、その切炉を使って茶を点ててくれた。