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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

五十ばかりになる、肥えた、血色のいい男で、歩きだすとすぐに、胆石病の話を始めた。

「なにしろおまえさん、胆石病とくると木っ端へ火がついたようなもんさ、眉毛と眉毛の間に茶色の皺ができる、それが胆石病の始まりさね、うっちゃっとくとそれが黒味をもってくる、そうなったら療治はむずかしい、ぶち毀した長屋の古材木みたようなもんさ」

伊兵衛は例の如く感心し、巧みにおどろいたり感じ入ったりした。客は続けて、胆石病の痛みは丸鑿で揉まれるようだ、と云った。胃のさしこみは小刀で抉られるようだし、肝臓の痛みは錐で穴をあけられるようである。腸とくると錆びた鋸で挽かれるようだし、急性の腎臓は千本の針を突込んでかきまわされるようである。だがなんといっても、胆石病の痛みにまさる痛みはない。などとも云った。……伊兵衛はしまいには、あいづちの打ちようがなくなったので、やむなくこう訊いてみた。

「失礼ですが胆石病をわずらっていらっしゃるんですか」

「私が胆石病ですって」客はふり返って、心外なことを聞くものだ、とでも云いたそうな眼つきをした、「とんでもない、冗談にもそんな、私は脚気の持病こそあるが、胆石病なんぞにはまだお眼にかかったこともありませんや」