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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

道中をするわけじゃないんだ、つまらない云いがかりはやめて貰いましょう」

伊兵衛はへどもどして赤くなり、われ知らず頭へ手をやっておじぎをした。こんどはいっぺんに、五六人の者が失笑した。そこでますます狼狽し、恥ずかしくなり、なにかわけのわからないことを云って、表へとびだした。

――醜態だ、なんということだ。

五尺八寸の躯が、只の三寸くらいに縮まったような心持で、恥ずかしくて恥ずかしくて、そのまま地面にめり込むか、煙になって消えてしまいたいくらいだった。

――たかの知れた駄賃のことで。

なんのためにあんな文句をつけたのか、あの客はあのとおり、肥えた堂々たる恰幅をしていた。身なりもいいし、荷物も重かった。どこかの裕福な商人だろう、決して僅かな銭をごまかすような人柄ではない。にも拘らずあんなことを云うなんて……こんなふうに思いながら、茶屋を出て吉田のほうへ戻ろうと、十四五間来たとき、うしろから呼びかける声がした。

「そこの人、ちょっと待って呉れ」

ふり返ってみると、馬子や駕籠舁きが七八人、なかには息杖や棒などを持って、こっちへ追いかけて来た。かれらはいまの出来ごとを見て、ずうたいは大きいが人間はへぼだ、と思ったらしい。