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ゆきこんじゃくものがたり

雪今昔物語

中谷 宇吉郎

「自然」1947(昭和22)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,695 字 · 32 页

青空文庫

その霜ももちろん人工的に作るのである。そういうふうにした罎の中央に、雪の結晶を細い毛で宙吊りにして密閉しておくと、昇華蒸発は大分少なくなり、四、五時間くらいは、辛うじて原形の輪郭を保つことが出来る。正午一寸前くらいに結晶を完成させて、それをこの保存罎の中にしまっておくと、最悪の場合の用意は出来たことになる。もっとも正午頃完了するはずの実験が失敗することも考えておく必要がある。この時代の技術では、二回実験して一度成功すればよい方であった。それでその前に今一回作っておいて、もし正午完了の実験に失敗したら、その旧い結晶で間に合わすことにする。それには、第一回の実験を朝の四時から始めればよい。これでまず出発はきまったわけである。

次にこの保存結晶と、生成途中の完全結晶との中間を行く道もある。それは十二時半に低温室を出る直前に、結晶がほぼ完成するようにして、そのまま水蒸気の供給を極度に減少しておく方法である。これは下手をすると、結晶が蒸発するか、過剰生長をする虞れがあるが、巧く半殺しの状態になっていてくれれば、一番巧いかつ安全な方法である。それで装置の一つは、この方に使うことにした。