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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
そうです。千駄木の師匠、雲原明流氏の内へ、縁あって弟子小僧に住込みました。
これは申すまでもありません。
「洞斎の兄の身にして見ればじゃ、にい、この妹をつれて、女房が上京するといえばや、当分だけなと、くらしをつける銭金の用意をしていて、一緒に世帯をするものと思うたのが、そのしだら魂胆や。つら当にも、その場からでも、妹を奉公させる……また奉公もせんならん。翌日が日の糧にも困った、あの逼迫やよってに、すぐに口を見つけて、にい、わすれもせんぞに――あんたはその千駄木へ。尼は、四谷へ、南と、北へ。……一日違いで徒士町から分れたというもんじゃ。地方で結うたなり、船や汽車で、長いこと、よう撫でつけもせなんだれど、これでも島田髷やったが、にい。」
私は顔を見た。
「覚えておいでますかにい――ちょっとの間やったけれど、おなごりが惜しかったぞ。北と南へ。」
どっちが北だか、南だか、方角に途迷いしたが、とにかく分れたのは難有かった、と思いました。……それに、言わるれば、白粉をごってり塗けた、骨組の頑丈な嫂というのには覚えはあるが、この、島田髷には、ありそうな記憶が少しもない。