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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

と、俎に向った処――鮒と鯛のつくりものに庖丁を構えたばかりで、鱗を、ふき、魚頭を、がりり、というだけを、吶る、あせる、狼狽える、胴忘れをしてとぼん、としている。

海豚が陸へ上った恰好です。

仕切の竹で、これと向合い、まばらな見物の先頭に、ぐんなりした懐手で、悄れた鰭のように袖をすぼめていた、唐桟柄の羽織で、黒い前垂をした、ぶくりとした男が、舞台で目を白くする絶句に後退りをしながら振返ったのが、私に気がつくと、そのまま……熟と視た。

開演中です。居膝るように、密と傍へ寄って来て、

「小山じゃないか。」

「おお。」

「出ようよ、静に。」

気のどくらしくて、見ていられない舞台だから、誘い手のある引汐に会場を出たのです。

「――何、植物園から豆府地蔵、不如、菎蒻閻魔にさ。煮込んでも、味噌をつけても、浮世はその事だよ。俺もこの頃じゃ、大船一艘、綾錦でないまでも、加賀絹、能登羽二重という処を、船も、びいどろにして、金魚じゃないが、紅、白、ひらひらとした処を、上海あたりへ積出すほどの決心だ。一船のせよう。あいかわらず女の出来ない精進男に、すじか、竹輪か、こってりとした処を食わせたい。