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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
「はいい。」
返事は下でお極りの、それは小女か女中かで、銚子、盃、添えものは、襖が開いて、姪――間淵の娘の手で、もう卓子台に並んだのでありました。
さて、お盃。なかなか飲める。……柳町で悩まされた孑孑が酔いそうなものではなかった。
「お孝、お孝。」
と若いかみさんの、姪を呼んで、
「重ねて、それ、お酌をせんかの。……何をぼんやり……あんたの顔を見とるがや。……電燈もつけて。」
その燈に、お孝が、……若いかみさんの飲まない顔が、何故か、耳元まで紅かったのです。
「これがほんの水入らず、にい。そういえば、お対手は、姪、尼でもや、酒だけは黒松の、それも生一本やで、何と、この上の町、ここでの名所、一本松というてもいいやろ。」
と尼刀自が洒落れた。が、この洒落は悪くない。
「ああ、そうじゃ……あんたの故郷にもおなじ名の名所があったに――一本松――
……忘れもせんぞに、私が十三か四の頃や、洞斎兄さえ、まだ、尾山(金沢を云う。近国近郷の称呼。)の、あんたの家へ寄宿せぬさき、親どもに手を曳かれて、お城下の本願寺、お末寺へ参詣した時、橋の上からも、宿の二階からも、いい姿に、一目に見はらされて今でも忘れはせんのじゃが、その昔、あすこに心中があったそうやに。