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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
「お危うございますよ、敷石に高低がありますから。」
「つんっても構やしません。」
「あんなこと。」
「そうすれば、お縋り申す。」
「おほほ。」
「しかし、いいんですか。……失礼ですが、お冬さん……ですね。」
横顔で莞爾したようで、唇が動いたが、そのまま艶々とした円髷の、手柄の浅黄を薄く、すんなりとした頸脚で、うつむいたのがうなずいた返事らしい。
「……ほんとうにいいんですか、病気だっていうじゃありませんか。」
「ぶらぶらしてはいましたけれど、よもや、こんな処へなぞおいでなさりはしなかろうと思っておりましたのに、真実嬉しゅうございますわ。」
「私も嬉しいんです。」
何だか声が掠れている。
「まあ、お世辞のいいこと。でも、いま、名をおっしゃられて震えましたよ。とても覚えてなぞお在なさらないと存じました。けれど、それでもお目にかかりますのに、余り取乱していたもんですから、急にあの髪結さんを呼んで、それから湯へ入ったりなんかして……ついお座敷へ伺いますのが。」
夜目にも湯上りの薄化粧と、見れば一層鬢が濡れて、ほんのりした耳元の清らかさ。それに人肌といいますか、なつかしい香が、傘を打つしとしと雨に、音もなく揺れるんです。