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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

娘のおかみさんがあるのに対してだ、と思われた。

あとで解った事ですが。――

お冬は武家の出で、本所に落魄れた旗本か、ごけにんの血を引いている。煮豆屋の婆が口を利いて、築地辺の大会社の社長が、事務繁雑の気保養に、曳船の仮の一人ずみ、ほんの当座の手伝いと、頼まれた。手廻り調度は、隅田川を、やがて、大船で四五日の中に裏木戸へ積込むというので、間に合せの小鍋、碗家具、古脇息の類まで、当座お冬の家から持運んでいた、といいます。その折に、雲原明流先生の内弟子、けずり小僧が訪ねたのです。

それこそ、徳川の末の末の細流は、淀みつ、濁りつ、消えつつも、風説は二の橋あたりへまで伝わり流れて、土地のおでん屋の耳から口へ、ご新姐であったとも思われる。

ついでに、

――曳船の時、お十九でいらっしゃいましたね、そのあんたの前で、間淵洞斎が頬杖をつきながら、十五の私を、おれの女房だと、申しました。それッきり、私は世の中を断念めました――

肌身は、茶碗の水と一緒に、その夜、卯の花のように、こなごなに散った、と言うのを、やがて聞くことになりました。

それも、これも、私が魅されたのかも知れない。