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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

)――

「私も消えとうございますわ。」

と、お冬さんがいった時です。松をしぶいて、ざっと大降りになった。単衣の藍、帯の柳、うす青い褄、白い足袋まで、雨明りというのに、濡々と鮮明した。

「傘では凌げません、雨宿りに、この中へ消えましょう。」

と、その姿で……ここは暗闇だ。お聞きになるあなたの目に、もう一度故郷の一本松を思い浮べて頂きたい。あの松の幹をです。立上りはしないで、傘なりに少し屈腰になって、その白い手で、トンと敲いたと思うと、蘭燈といいますか、かさなり咲いた芍薬の花に、電燈を包んだような光明がさして、金襴の衾、錦の褥、珊瑚の枕、瑠璃の床、瑪瑙の柱、螺鈿の衣桁が燎爛と輝いた。

覚悟をしました。たしかに伝来の魔法にかかった。下司と、鈍痴と、劣情を兼ね備えた奴として、この魔法にかからずにいられますか。

その上に大酔悩乱です。――一度はいつか、二日酔の朝、胸が上下に跳上り動悸をうつと、仰向けに寝ていて、茶の間の、めくり暦の赤い処が血を噴いた女の切首になって飛上り飛下りしたのを忘れない。それにもました惑乱です。

のめり込んで、錦爛の裡にぽかんとすると、

「一口、めしあがりますか。