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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

若い身空にふりみふらずみ、分けてその日は朝から降りつづく遣瀬なさに、築地の家を出て、下谷三の輪辺の知辺の許へ――どうも前に云った雪中庵の連中といい、とかく赤蜻蛉に似て北へ伸すのは当今でいえば銀座浅草。むかしは吉原の全盛の色香に心を引かれたらしい。――三の輪の知人在宿にて、双方心易く、四方山の話に夜が更けた。あるじ泊りたまえと平にいう。いや夜あるきには馴れている、雨も小留みに、月も少し明ければ途すがら五位鷺の声も一興、と孔雀の尾の机にありなしは知らぬ事、時鳥といわぬが見つけものの才子が、提灯は借らず、下駄穿きに傘を提げて、五月闇の途すがら、洋杖とは違って、雨傘は、開いて翳しても、畳んで持っても、様子に何となく色気が添って、恋の道づれの影がさし、若い心を嗾られて、一人ではもの足りない気がすると言う。道を土手へ切れかかった処に、時節がら次男、懐中の湿っぽさが察しられる。寂しくわが邸を志して、その浅草新堀の西福寺――震災後どうなったか判らない――寺の裏道、卵塔場の垣外へ来かかると、雨上りで、妙に墓原が薄明いのに、前途が暗い。樹立ともなく、葎くぐりに、晴れても傘は欲しかろう、草の葉の雫にもしょんぼり濡々とした、痩せぎすな女が、櫛巻の頸細く、俯いた態で、褄を端折りに青い蹴出しが、揺れる、と消えそうに、ちらちらと浮い