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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

電気は消えて真ッ暗の街路に、雨戸や障子を持ち出して誰も彼もが露宿の準備をしている。南から東へかけて火事はますますひどいらしく、夜の雲に映って見渡す限り空は真ッ赤だ。大学が丸焼けだという。一高にも火がついたという。順天堂病院も焼けたという。造兵の火がはや伝通院あたりまで来たという。本所・深川方面は火事と津浪とで全滅じゃそうなという。神田も、日本橋も、京橋も、芝も、浅草も、下谷もすべて焼けているという。はては宮城にも火が移ったという。噂は噂を生んで何が何やら少しもわからぬが、何にしても大変なことだ。深川には親戚がある。本所にも妻の妹が幼児を連れてまだ逗留しているはずだ。伝通院前には西川君(龍治、文部省図書事務官)のお宅がある。おりから同君は令息の病気保養の転地について、鎌倉へ行っておられるとのことである。定めて留守宅では困っておられるであろう。またそこまで火が来たとすれば、久堅町の甥の宅だとて油断がならぬ。本郷・神田方面の友人の上も心配だ。とても安閑としている気にはなれぬが、さてこの瓦や壁土まで落ちてしまった母屋や土蔵などの屋根を差当りどうするであろう。