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しんさいにっし
震災日誌
喜田 貞吉
「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页
これではいかに市の完備したはずの消防でも、とても応接にいとまはあるまい。そのうえ水道が断えているのだもの。燃え草のあらん限り燃えるようになるかも知れぬ。地震よりもそれから起る火事の方が恐ろしい。
久堅町に甥がいる。手を抜いた安普請の貸家なので、心配になってさっそく次男を見舞にやる。電車が通わぬので自転車でかけつけさせたが、これは案外にも少々壁が損じたばかりで、瓦一枚落ちておらぬそうだ。煉瓦塀が倒れたり、瓦の落ちたのはザラにあるが、大体このあたりは高台なので、地盤が堅いためか被害が少い。
立ち昇る煙は時の経つとともにますます盛んだ。東南の空には例えば打ち綿を積み上げたとでも言うような、煙ともつかず、雲ともつかぬ真白のものが、高く立ち昇って天に沖している。まるで桜島噴火のさいの写真を見るようだ。ある人はどこか近くに火山が出来たのではないかという。ある人は大学か造兵(兵器本廠)かの火事で薬品が焼けたのだろうなどともいう。何にしても恐ろしいことだ。
夕方になってから昼飯兼帯の夕飯をすます。相変らず揺り返しが繰り返される。誰言うとなく夜半には大きな奴が来るとの風説が宣伝される。