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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
梅鉢紋付の羽織を着ていた二郎及びその他の一族はすべて傍らの樹枝で縊死を遂げた。二郎は死の道づれに妻の姿が無いことだけが心残りであった。
これらの屍体は十一月八日付近探索中の蕃地警察官によって発見された。ただちに二郎の妻が現場に伴われた。妻は森林中に脚を踏み入れるなり、目をおおって号泣した。一郎二郎の屍体であることは確認されたのである。
討伐隊は彼らの屍体を前にして、暗澹とした面もちでつぶやいた。
「あれだけ可愛がったのに……。結局は蕃人であった。自分たちと行を共にすることをしなかった」
しかし、他の者はそれをさえぎるように答えた。
「けれども、一郎が割腹して果てたのは、なんといっても教育の賜ではないか」
いったい蕃人の自殺といえば、すべて以前は縊死によるものばかりであった。切腹の形式をとったのは蕃地では花岡一郎が最初だったのである。
マヘボ付近の大岩窟中に潜入した兇蕃たちは時折り警備線を突破しては討伐隊と小競りあいを演じていた。隊を悩ますところ少くなかったが、しかし、彼ら自身の被害はさらに大きかった。戦闘員は次第に減少してくるのである。また、連続的な攻撃によって、さしもの岩窟もしだいに粉砕されてき始めた。