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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

そしてまっさきに家具屋へゆき、大きな坐机を買った。十七円のところを、隅の方にひび割れがあるからとて十三円にしてくれた。下宿代の滞納で押さえられ、机をもたないでいた修造は、これでやっと落ちついたらしかった。あとの買物は茂緒まかせだった。

待望の水屋を八円で買った。一ばん安いのの次のであった。

「時計を一つ、買いましょうね。」

空色の四角なガラスにはめこんだ置時計は一円だった。

「盥も買いましょう。せんたくしなくちゃ。」

空行李の一つ二つの中に、煮しめたような浴衣や夏冬の肌着類が入っていたのを、茂緒は思いだしていた。それらの幾枚ものよごれものは、あまりに極端な汚れかたで、出してみることも、話題にすることさえもはばかられていた。トタンの盥は一円七十銭だった。ついでに茂緒は、伸子張の道具を一そろい買った。

「わたし、これでせんたくや縫物大すきなんですよ。夜、おけいこにいったの。あんたのふとんや着物、ぜんぶ洗ってきれいにしますわ。」

それには十年の垢がたまっていると茂緒には見えた。そして彼女は、そっときいてみた。

「ね、はじめてのとき、紺がすり着てたでしょう。あの着物だって、洗うとパリッとするわ。