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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
そこへゆくまでに、はっきりと相談をしたわけでもないのに、言わず語らずそんなことになっていたのだ。しかし、よごれた久留米がすりの着物の、衿のうしろは赤茶けて破れているような着物を着て、日曜日でもないのに家さがしをする若い男と、ろくにあいさつもしない無愛想な女の一組には、なかなか家主は気を許さなかった。どこの表通りにも、横町の路地にも、貸家の札はめまぐるしいほどだったが、そのありあまった家を貸してやろうとはいわないのだ。そうして何軒も見てまわったあげく、三日目にようやく一軒話が成立したのが、六畳三畳の新しい家だった。前に広い原っぱがあり、風でも吹けば埃に包まれそうな家だった。
家主は近くの神社のわきの質屋だった。これまで、なんども交渉してだめだった修造に、
「こんどは、あんたが行ってみてください。」
みちみち、そういわれて、茂緒は尻ごみをしていたが、そばまでくると決心して、襟もとなどかき合わせながら、つきつめたような顔をして、のれんをくぐった。胸もどきどきしていた。これまでの家主とちがって、質屋という構えも、何となく圧迫を感じさせられたのだが、お客とでも思ったらしく愛想よく迎える言葉を聞くと、ほっとして、格子越しの五十がらみの男にていねいにおじぎをし、