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いずこへ
風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇
坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页
彼女は私にちょっと来て下さいと別室へつれて行き、箪笥からとりだしたのか、喪服に着かえながら、
「あいつ、私を苦しめるために自殺したのよ」
「そんなことはないさ。人を苦しめるために人間も色んなことをするだろうけど、自殺はしないね。ヒステリーの娘じゃあるまいし、四十歳の文士だから」
「うそよ。あいつ、私を苦しめるためなら、なんだってするわ。いやがらせの自殺よ」
「まア、気をしずめなさい」
私はふりむいて部屋を去った。私には彼女が喪服を持っていたのが不思議であった。どうして喪服だけ質屋に入れていなかったのか、着る物の何から何まで流してしまった生活の中で。
私がそんなことを考えたのも、女の喪服というものが奇妙に色ッポイからで、特別それを着つつある最中は甚だもって悩ましい。そういう奇怪になまめかしく色っぽいのがポロポロ口惜し涙を流して、あいつ、私を苦しめるために自殺しやがった、という、私もこれには色ッポサの方に当てられたから、さっさと逃げだしてしまった。まことにお恥しい次第である。
私はその後いくばくもなく京都へ放浪の旅にでた。一年半、それから東京へ帰った一夜、庄吉夫人の訪問を受けた。