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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

坂口安吾『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:いずこへ、青い絨毯、石の思い、オモチャ箱、篠笹の陰の顔、天才になりそこなった男の話、二十七歳、母、魔の退屈、私は海をだきしめていたい、流浪の追憶。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,879 字 · 242 页

青空文庫

せめて、この一言のみが、掻き消え失せてくれないように、と。

私は然し、私の必死の希願に就て、自ら一語も発することができなかった。私はただ、幸いに残り得た一語のいのちを胸にだきしめていたのである。ああ、これは残そう。これは面白い言葉じゃよ、とそれに答えた河田の言葉を私は今も忘れることができないほどである。

私はすでにその前に、矢田さんと結婚したいということを母に言った。母も即座にうなずいていたが、やがて日数へて、いつ結婚するか、という。私は胸をしめつけられて、返事ができず、ようやく声がでるようになると、もう厭なんだ、やめたんだ、と答えて席を立った。

然し、三日にあげず手紙が来ているのだから、母は私の言葉を痴話喧嘩ぐらいにしか受けとらず、あるとき親戚の者がきたとき、私を指して、今度、矢田津世子と結婚するのだ、と言う。嘘だ! 結婚しないと言っているのに! 私は唐突に叫んだ。叫ぶことが、無我夢中であった。私の血は逆流していた。私は母の淋しい顔を思いだす。

その頃だった。例の十七の娘が、神経衰弱の如くになって、足もとをフラフラさせ、私を訪ねてきて、酒を飲みに行こうよ、お金は私が持っているから、と言う。