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ぐるめにおくる

食魔に贈る

岡本 かの子

「中央公論」1932(昭和7)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,619 字 · 20 页

青空文庫

給仕の態度はいかにも秘密の味を運んで来たもののようである。骨の髄だ。給仕はそれを匙で抉ってそっと皿へ落す。月石の光芒がスープの中にぽくりと浮き出る。

間皿は季節柄ラ・ベカッセ・シヴリである。山鷸を血のしたたるまま、十五分間煮る。他に色の好いシャンピニヨンを、十二個薄切にしてバタで半焼にする。その同じ鍋に洗ってから、ちょっと焙った膩肉の小片二十四を加えて混ぜ返す。リキュール酒、グラス一ぱいを半分に煮詰めたもの、それに二倍のクリームと肉汁二匙とを前の鍋に入れどろどろまで混ぜ合せて煮る。これは附け合せである。山鷸は程よく肉を切りパンの間に挟みパンの表面には装飾かたがた股の肉と翼の肉を載せて皿に置き附け合せて側に盛る。

之は山の鳥の持つすべての味の精である。喰べた人の細胞の隅々まで浸み入るデリケートな執拗な滋味である。それを付け合せの茸の淡白の味が飄逸に取做す、山野の侘びとフランス人工の奢りとの取合せだ。

胃の腑はまたこの店の古典味をまで味うとする。由緒は客をして十六世紀の後半にまで追憶を遡らせる。ルュクサンブルグ宮殿には若きルイ十六世とその妻マリー・アントワネットが住んでいた。