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こうちょうのなげき

黄鳥の嘆き

甲賀 三郎

——二川家殺人事件

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页

青空文庫

野村もよく可愛がられた事を覚えている。

この乳母がその時は実に恐かった。

「坊ちゃん、そんな所で遊んでいてはいけません。早く家の中へお這入りなさい」

と激しく叱責されたが、その時に乳母が眼を真赤に脹らして、オイ/\泣声を上げたので、野村は之は大へんな事が起ったのだなと思った。

その乳母は重明が十か十一の年にお暇を貰って行った。その時に彼女は野村に、

「うちの坊ちゃんと、いつまでも仲好くして下さいね。大くなったら互いに力になって頂戴。うちの坊ちゃんはお友達が少いのですから、本当にいつまでも変らないでね」

と、しんみりとしていった。子供心にも、野村は何だか変な気持になった。

(あの乳母はどうしているだろう。本当に優しいいゝ人だった)

と、追憶すると共に、今までそれを思い出すこともなく、大して二川の力になれなかった事を、もう一度大へん済まないように思った。

二川家は大へん混雑していた。新聞記者らしい者が二三人詰めかけていた。流石に家柄だけに、縁辺の人や旧藩の人達が多勢来ていた。

野村はむろん直ぐ通された。

彼が想像した通り、叔父の重武が万事采配を振っていた。