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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「いや、結局は比の問題さ。しかし僕は、知性にも魔法的効果があると信じているよ」と法水は充血した眼に、夢想の影を漂わせて云った。「ところで、強烈な擽痒感覚に、電気刺戟と同じ効果があるのを知っているかね。また、痲痺した部分の中央に、知覚のある場所が残ると、そこに劇烈な擽痒が発生するのも、たぶんアルルッツの著述などで承知のことと思うよ。ところが君は、伸子の頸椎に打撲したような形跡はないと云う。けれども乙骨君、ここに僅った一つ、失神した人間に反応運動を起させる手段がある。生理上けっして固く握れる道理のない手指の運動を、不思議な刺戟で喚起する方法があるのだ。そうしてそれが、ジーグフリード+木の葉――の公式で表わされるのだがね」

「なるほど」と熊城は皮肉に頷いて、「たぶんその木の葉と云うのが、ドン・キホーテなんだろうよ」

法水はいったんかすかに嘆息したが、なおも気魄を凝らして、神業のような伸子の失神に絶望的な抵抗を試みた。

「マア聴き給え。恐ろしく悪魔的なユーモアなんだから。エーテルを噴霧状にして皮膚に吹きつけると、その部分の感覚が滲透的に脱失してしまう。それを失神した人間の全身にわたって行うのだが、手の運動を司る第七第八頸椎に当る部分だけを、ちょうどジーグフリードの木の葉のように残しておくのだ。