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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ところで、眼科に使うコクチウス検眼鏡の装置を御存じでしょうか。平面反射鏡の中央に微孔を穿って、その反対の軸に凹面鏡を置き、そこに集った光線を、平面鏡の細孔から眼底に送ろうとするのですが、この場合は、天井のシャンデリアの光が凹面の弁に集って、それが前方の平面弁にある気泡を通ってから、向う側にある前立星に照射されたからでした。つまりそれが判ると、前立星の激しい反射光をうけねばならない位置を基礎にして、眼の高さが測定されるのでしょう」
「しかし、その反射光が何を?」
「ほかでもない、複視が起されるのですよ。催眠中でさえも眼球を横から押すと、視軸が混乱して複視を生ずるのですが、横から来る強烈な光線でも、同様の効果を生みます。つまりその結果、前方にある聖母が十字架と重なるので、ちょうど聖母が磔刑になったような仮像が起る訳でしょう。云うまでもなく、その置き換えた人物と云うのは、婦人なのです。何故なら、そうして幻のように現われる聖母磔刑の仮像は、第一、女性として最も悲惨な帰結を意味しています。また一面には、天来の瞰視をうけているような意識に駆られて、審判とか刑罰とか云うような、妙に原人ぽい恐怖がもたらされてくるのですよ。