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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

だいたいそう云った宗教的感情などというしろものは、一種の本能的潜在物なんですからね。どんな偉大な知力をもってしても、容易に克服できるものではありません。直観的ではあるが、けっして思弁的ではないのです。もともと刑罰神一神説は……公教精神は、聖アウグスチヌスが永劫刑罰説を唱えたとき、すでに超個人的な、抜くべからざる力に達していたのですからね。ですから、不慮であると否とにかかわらず、その大魔力はたちまちに精神の平衡を粉砕してしまいます。ことに、脆い、変化をうけ易い、何か異常な企図を決行しようとする際のような心理状態では、その衝撃には恐らくひとたまりもないことでしょう。……つまり田郷さん、そういった動揺を防ぐために、その婦人は二つの兜を置き換えたのですよ。しかし、前立の星と並行する位置で、おおよその身長が測定されるのですが、五フィート四インチ――その高さを有する婦人は、いったい誰でしょうか。云うまでもなく、傭人どもなら大切な装飾品の形を変えるようなことはしないでしょうし、四人の外人は論なしとしても、伸子も久我鎮子も、それぞれに一、二インチほど低いのです。