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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかし、五芒星呪文に対する彼の追及は、けっしてそれのみには尽きなかったのである。
「しかし、まだまだ僕は、あの五芒星呪文に、もっと深いところに内在している、核心のものがあると信じていたのだ。つまり、この事件の生因と関聯している、サア、犯罪動機と云うよりも、まだもっと深奥のものかもしれない。いや、もう少し広い意味で云うと、黒死館の地底には、一面に拡がっている幾つかの秘密の根がある。それが盤根錯綜として重なり合っている個所の形状を、何かの動機で知ることが出来はしまいかと考えたのだ。それで、試みに様々の角度を使って、一々あの呪文を映してみたのだよ」とそこまで云うと、法水はさすがに疲労の色を泛べて、昨日一日を費やした凄愴な努力を語るのだった。
それによると、犯人を一種の展覧狂と信じている法水は、最初伝説学に考察の矢を向けたのだった。アナトール・ル・ブラの「ブリトン伝説学」やガウルドの「オールド・ニック」までも渉猟して、性別転換の深奥に潜んでいて犯罪動機に符合するものを、中欧死神口碑の中に見出そうとした。また、シェラッハウヘンの「シュワルツブルグ城」その他から、妖精の名称に関する語源学的な変転を知ろうとした。