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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

つまり、水精と水魔との間に一致があれば、女神フリーヤー(すなわちニケーアあるいはニックスと一体で善悪二様の化身のあるヴォーダン神の妻)の化身と云われる白夫人伝説のなかに、異様な二重人格的意義を発見できはしまいかと考えたからである。さらに、「Volksbuch」やゴットフリート(フォン・シュトラスブルグ)の神秘詩や、ハーゲンやハイステルバッハ、それから、ゲーテの「ファウスト第一稿」と第二稿、第三稿との比較も試みたけれども、結局その第一稿には、第二稿以下には判然としていない地霊(すなわち、ウンディネ・ジルフェ・サラマンダー・コボルトを眷族とする大自然の精霊)が、壮大な哲学的な姿を出現させているのみであった。しかし、この五芒星呪文に関する法水の解説は、むしろ講演に等しかった。それなので、ジリジリ緊迫の度を高めていた空気がしだいに緩んでいって、背中に陽をうけている二人の間には、ぽかぽかした雲のような眠気が流れはじめた。検事は皮肉な嘆息をして云った。

「とにかく、この一事だけは断っておこうよ――この席上が弾薬塔だということをね。とにかくそういう話は、いずれ薔薇園でやってもらうことにしようじゃないか」