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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
もう申し上げる必要はございませんでしょうが、あの酸化鉛の罎の中には、容器に蔵めた二グラムのラジウムが隠されてあったのです。それを私は、かねて伯父から聴いておりましたので、押鐘の病院経営を救うために、ある重大な決意をいたさねばなりませんでした。そして、一月ほど前から、この館を離れずに――。ああ、その間、私にはあらゆる意味での、視線が注がれました。しかし、それさえもじっと耐えて、私は絶えず、実行の機会を狙っていたのでございます。ですから、私がこの室で試みましたいっさいのものは、無論愚かな防衛策なのでございます。もしも、ラジウムの紛失が気づかれた際に、その場合仮空の犯人を、一人作るつもりだったのでした。どうか法水さん、あの、あのラジウムをお取り戻しなすって――先刻押鐘が持ち帰りましたのですから。けれども、この点だけは断言いたしますわ。いかにも、私は盗んだに相違ないのですが、しかし、私の犯行と同時に起った殺人事件には、絶対関係がございませんのですから」
津多子夫人の告白を聴いて、法水はしばらく黙考していたが、ただもうしばらく、この館に止まるよう命じたのみで、そのまま彼女を戻してしまった。