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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それに、熊城が不服らしい素振を見せると、法水は静かに云った。

「なるほど、あの津多子という女は、時間的にすこぶる不幸な暗合を持っている。けれども、ダンネベルグ事件以外には、あの女の顔がどこにも現われてはいないのだよ。しかし熊城君、実を云うと、あの電話一つに、もっともっと深い疑義があるのではないかと思うよ。とにかく、久我鎮子の身分と押鐘博士を、至急洗い上げるように命じてくれ給え」

そこへ、法水の予測が的中したという報知が、私服からもたらされて、はたせるかな地精の札が、伸子の室にある格子底机の抽斗から発見されたのだった。そこで法水等は、伸子を引き立ててきたという、旧の室に戻ることになった。扉を開くと、嗚咽の声が聞える。伸子は、両手で覆うた顔を卓上に伏せて、しきりと肩を顫わせていた。熊城は、毒々しい口調を、彼女の背後から吐きかけるのだった。

「君の名が点鬼簿から消されていたのも、わずか四時間だけの間さ。だが、今度は虹も出ないし、君も踊るわけにはゆかんだろう」

「いいえ」と伸子は、キッと顔を振り向けたが、満面には滴らんばかりの膏汗だった。「あの札はいつの間にか、抽斗の中に突っ込まれてあったのですわ。