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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「それに法水君、仮令ばレヴェズが本開閉器を消し、それから僕等のしらない、秘密の通路を潜って、クリヴォフ夫人を刺したにしてもだ、だいたい、クニットリンゲンの魔法博士ファウストともあろうものが、何故最後の大見得を切らなかったのだろうか。あれほど芝居げたっぷりだった犯罪者の最後にしては、すべてがあまりにあっけないほど、サッパリしすぎているじゃないか」ととうてい解しきれないレヴェズの自殺心理が、検事をまったく昏迷の底に陥れてしまった。彼は狂わしげに法水を見て、「法水君、この自殺の奇異な点だけは、君が、十八番のストイック頌讃歌からショーペンハウエルまで持ち出してきても、恐らく説明はつかんと思うね。何故なら、目下犯人の戦闘状態たるや、完全に僕等を圧しているんだ。そこへもってきて、あまりに唐突な終局なんだ。ああ、憐れむべき萎縮じゃないか。どうして、この男の想像力が、あのサルヴィニ(表情演技の誇大な伊太利俳優の典型)張りの大芝居だけで、尽きてしまったとは信じられんよ。時の選択を誤らないためにか、それとも、誇らしげに死ぬためか……。いやいや、けっしてそのどっちでもないはずだ」