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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ました。そうなると、当然発作が起った場合、あの方の痲痺した方の手には、自働手記(心理学者ジャネーの実験に端を発したもので、知らぬ間に筆を持たせた者の痺れた手を、気付かぬように握って、両三回文字を書かせると、その握った手を離した後でも、その通りの文字を自分の筆跡でしたためる――と云う、一種の変態心理現象。)が可能になるではありませんか。いや、伸子さんの室の扉際にあった、鉤裂きの跡を見ても、夫人の右手が、あの当時痲痺していたことが判るんですよ。しかし、あの場合は、それがもう一段蜻蛉返りを打って、さらに異様な矛盾を起してしまったのでした。と云うのは、利手の異なる方の手で、刺戟を与えた場合には、時折要求した文字ではなく、それに類似したものを書くということなんです。勿論あの夜は、伸子さんが花瓶を倒し、それと入れ代りにダンネベルグ夫人が入って来て、しかも激奮に燃えた夫人は、寝室の帷幕の間から、右肩のみを現わしていました。ですから、時やよしと、貴方は自働手記を試みたのでしたね。しかし、結果において夫人が認めたものは、貴方が要求したそれとは異なっていたのです」と卓上の紙片に、法水は次の二字を認め、とくにその中央の三字を円で囲んだ。