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くろべきょうこく
黒部峡谷
木暮 理太郎
「東京朝日」1919(大正8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,752 字 · 26 页
同会社の測量隊は其年限り引上げてしまったそうであるから、此切明とても間もなく荒廃して通行覚束ないものとなるであろう。尚お大正九年の夏には東洋アルミナム株式会社で、欅平から奥仙人沢まで河に沿うて歩道を作り、翌十年には更に奥仙人沢から平の小屋に至る道を造る計画があるとの噂を聞いた。果してそれが実行されるや否やは覚束ない限りであるが、唯鐘釣温泉以下の林道のみは、或は車を通ずる大道となるやも測られないと思う。
然し困難と危険とに反て興味を感ずる登山者に取りては、道の有無などはどうでもよいのだ。夫で大正七、八年の頃から此峡谷に入り込む登山者が続出した。そして一度此峡谷に足を踏み入れた人は、其困難と危険とを説かないものはない。かく黒部遡行が容易でないのは、両岸の峭壁が高いので崖上を通行せんとすれば断崖に支えられ、汀を辿らんとすれば水深く且奔湍激流をなして、徒渉も架橋も或場所を除くの外行い難いことが大なる原因をなしているのである。
今其遡行の大略を記して見ると、欅平で祖母谷林道と分れ、黒部本流の左岸に沿うて蜆谷に至り、蜆坂の険を上ると対岸に奥鐘釣山の大絶壁が見える。