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くろべきょうこく
黒部峡谷
木暮 理太郎
「東京朝日」1919(大正8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,752 字 · 26 页
ているし、白馬岳の如きは五百米も高いので、多雪地帯ともいう可き後立山山脈の北半に在りても、最も雪量が多い。これが夏になって駆け出しの登山者を驚喜せしむる白馬尻の大雪渓ある所以である。之に次では黒岳(水晶山)が二千九百二十六米もある薬師の大岳を西北の障屏としてはいるが、流石に一頭地を抜いているだけに、其東面に在る三個のカールには多量の残雪が眩い光を放っている。鹿島槍ヶ岳以南の爺岳・針ノ木岳・蓮華岳・野口五郎岳若くは鷲羽ヶ岳などは、平均高度を突破した秀峰であるに拘らず、積雪の量は毛勝連峰よりも少いのである。薬師岳の四個のカールも亦多量の雪を貯蔵することに於て、黒岳を凌駕しているが、東の側面が短くて急である為に、劒沢のような大雪渓の発達は見られない。独り立山連峰のみは日本アルプスに於ける万年雪の一大宝庫たる名を擅にす可き有ゆる条件を具えて、崢たる峰巒を飾るに、白雪燦然たる四個の大カールと、刃のこぼれた絶大な薙刀を懸け連ねたような大雪渓とを以てし、其間に盛夏八月尚延長一里に近い劒沢の雪渓を擁して、後立山山脈を羚羊のように縦走する登山者に讃嘆の眼を瞠らしむるのである。