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せかいのいっかんとしてのにほん
世界の一環としての日本
戸坂 潤
線上閱讀戸坂 潤《世界の一環としての日本(せかいのいっかんとしてのにほん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 215,338 字 · 422 頁
――とに角こうした根本的な修正の揚句に辛うじて不穏文書取締法が実施されることになったが、その際興味のあるのは、この実施に先立って、郵便局が怪しげな郵便物はその受取人又は差出人に開示を命じるよう通牒を受けたことだ。今や出版物の取締りは、封緘内の私信にまで強化され徹底された。
一方に於て私信にまで取締りの眼が行き届いているのに、他方に於ては依然として不穏文書出版物は後を絶たない。例えば三六年七月には東京商大の某教授が謄写版刷りの不穏文書を配布して召喚された、等々。
不穏文書と密接な関係のあるものは、古典文書である。近年この方面に於て著しく事件の数が殖えつつあることは特に注目に値いする。一九三四年の十一月日本精神協会(その会長は美濃部機関説排撃のパイオニーヤとなった菊池武夫氏である)は、謡曲(蝉丸)の不敬を指摘して内務省図書課に廃曲方を陳情した。その結果蝉丸は謡曲としても能としても一時上演禁止となったらしい。日本の光輝を伝える筈の古典そのものさえ、二十世紀になってから急にこういう運命に立ち至ったのだから、その他の古文書の類は推して知るべしで、例えば日蓮上人の御文章の或るものとか、其の他各種の記録がやおら蒼惶と取締りを受けることになった。