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せけんし

世間師

小栗 風葉

線上閱讀小栗 風葉《世間師(せけんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,390 字 · 36 頁

青空文庫

その男はしばらくそこらを見廻していたが、やがて舌打をして、

「阿母、俺の着て寝る布団がねえぜ。」と上り口から呶鳴った。

「ああそう、忘れていた、今夜は一人殖えたんだから。」と言う上さんの声がして、間もなく布団を抱えて上ってきた。

男はその布団を受取って、寝床と寝床と押並んだ間を無遠慮に押分けて、手敏く帯を解いて着物を脱いで、腹巻一つになってスポリと自分の寝床に潜ぐりこんだ。そして寝床の中で腹巻の銭をチャラチャラいわせていたが、

「阿母、おい、ここへ置くよ。今夜のを。」と枕元へ銅貨の音をさせた。

私は悸とした。

すると、案のごとく、上さんはそれを受取ると、今度は薄暗いランプの火影で透しながら、私の枕元へ来た。

「お前さんにはまだ屋根代が貰ってなかったね。屋根代が六銭。それから宿帳を記けておくれな。」と肩先を揺る。

私は睡ったふりもしていられぬので、余儀なく返事をして顔を挙げた。そして上さんのさしだす宿帳と矢立とを取って、まずそれを記してから、

「その……宿代だが、明朝じゃいかんでしょうか。」

「明朝――今夜持合せがないのかね。」

「明朝になればできるんだが……」