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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁

青空文庫

病後の吉左衛門には、まだ裏の二階へ行って静養するほどの力がない。あの先代半六が隠居所となっていた味噌納屋の二階への梯子段を昇ったり降りたりするには、足もとがおぼつかなかった。

この父は四月の発病以来、ずっと寛ぎの間に臥たり起きたりしている。その部屋は風呂場に近い。家のものが入浴を勧めるには都合がよい。一方は本陣の囲炉裏ばたや勝手に続いている。みんなで看護するにも都合がよい。そのかわり朝に晩に用談なぞを持ち込む人たちが出たりはいったりして、半蔵としてはいつまでも父の寝床をその部屋に敷いて置くことを好まなかった。どうかすると頭を冷やせの、足を温めろのという父を見るたびに、半蔵は悲しがった。さびしい病後のつれづれから、父は半蔵に向かっていろいろ耳にしたことの説明を求める。六十四歳の晩年になってこんな思いがけない中風にかかったというふうに。まだ退役願いもきき届けられない馬籠の駅長の身で、そうそう半蔵任せにして置かれないというふうにも。半蔵は京都や江戸にある平田同門の人たちからいろいろな報告を受けて、そのたびに山の中に辛抱してはいられぬような心持ちにもなるが、また思い返しては本陣問屋庄屋の父の代わりを勤めた。