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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁
四
四十台か、せいぜい五十に手の届く年ごろの面影と見えて、まだ黒々とした髪も男のさかりらしく、それを天保時代の風俗のような髻に束ねてあった。それは見台をわきにした座像で、三蓋菱の羽織の紋や、簡素な線があらわした着物の襞にも特色があったが、ことに、その左の手を寛いだ形に置き、右の手で白扇をついた膝こそは先師のものだ、と思って、心をとめて見た覚えがある。見台の上に、先師畢生の大きな著述とも言うべき『古史伝』稿本の一つが描いてあったことも、半蔵には忘れられなかった。あだかも、先師はあの画像から膝を乗り出して、彼の前にいて、「一切は神の心であろうでござる」とでも言っているように彼には思われて来た。
四
いよいよ参籠の朝も近いと思うと、半蔵はよく眠られなかった。夜の明け方には、勝重のそばで目をさました。山の端に月のあるのを幸いに、水垢離を執って来て、からだを浄め終わると、温かくすがすがしい。着物も白、袴も白の行衣に着かえただけでも、なんとなく彼は厳粛な心を起こした。
まだあたりは薄暗い。早く山を発つ二、三の人もある。遠い国からでも祈願をこめに来た参詣者かと見えて、月を踏んで帰途につこうとしている人たちらしい。