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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁

青空文庫

間もなく半蔵らは街道を離れて、山間に深い林をつくる谷に分け入った。檜、欅にまじる雑木も芽吹きの時で、さわやかな緑が行く先によみがえっていた。王滝川はこの谷間を流れる木曾川の支流である。登り一里という沢渡峠まで行くと、遙拝所がその上にあって、麻利支天から奥の院までの御嶽全山が遠く高く容をあらわしていた。

「勝重さん、御嶽だよ。山はまだ雪だね。」

と半蔵は連れの少年に言って見せた。層々相重なる幾つかの三角形から成り立つような山々は、それぞれの角度をもって、剣ヶ峰を絶頂とする一大巌頭にまで盛り上がっている。隠れたところにあるその孤立。その静寂。人はそこに、常なく定めなき流転の力に対抗する偉大な山嶽の相貌を仰ぎ見ることができる。覚明行者のような早い登山者が自ら骨を埋めたと言い伝えらるるのもその頂上にある谿谷のほとりだ。

「お師匠さま、早く行きましょう。」

と言い出すのは勝重ばかりでなかった。そう言われる半蔵も、自然のおごそかさに打たれて、長くはそこに立っていられなかった。早く王滝の方へ急ぎたかった。

御嶽山のふもとにあたる傾斜の地勢に倚り、王滝川に臨み、里宮の神職と行者の宿とを兼ねたような禰宜の古い家が、この半蔵らを待っていた。