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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁

青空文庫

その隣の国に比べると、この山里の方にあるものはすべておそい。あだかも、西から木曾川を伝わって来る春が、両岸に多い欅や雑木の芽を誘いながら、一か月もかかって奥へ奥へと進むように。万事がそのとおりおくれていた。

その時、半蔵は鶴松を顧みて、

「あの山の向こうが中津川だよ。美濃はよい国だねえ。」

と言って見せた。何かにつけて彼は美濃尾張の方の空を恋しく思った。

もう一度半蔵が鶴松と一緒に茶屋へ引き返して見ると、ちょうど伏見屋の下男がそこへやって来るのにあった。その男は庄兵衛の方を見て言った。

「吾家の旦那はお寺の方でお待ち受けだげな。和尚さまはまだ見えんかなし。」

「おれはさっきから来て待ってるが、なかなか見えんよ。」

「弁当持ちの人足も二人出かけたはずだが。」

「あの衆は、いずれ途中で待ち受けているずらで。」

半蔵がこの和尚を待ち受ける心は、やがて西から帰って来る人を待ち受ける心であった。彼が家と万福寺との縁故も深い。最初にあの寺を建立して万福寺と名づけたのも青山の家の先祖だ。しかし彼は今度帰国する新住職のことを想像し、その人の尊信する宗教のことを想像し、人知れずある予感に打たれずにはいられなかった。