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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《山彦乙女(やまびこおとめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 頁

青空文庫

釜戸から六尺ばかり離れたところに、方五尺ばかりの、やや平たい岩がある。巨大な岩の、頂面だけ地上に出ているらしい。蘚苔に包まれていたのを、幾らか手を加えたとみえるが、半之助はその上へ、出して来た食器を並べた。

「ほっ、ほう……」

さっきの声が、こんどはずっと近いところで、聞えた。

半之助は頭上をふり仰いだ。

明るみかけた梢のあたりで、にわかに小鳥が騒ぎだした。あわただしく翼の音がし、なにかがこぼれでもするように、枝と枝のあいだを、ばらばらと、小鳥の群が舞い立って、いま聞えた声のほうへと、先を争うように、飛び去っていった。その騒ぎで、雨のように落ちて来る、枝葉のしずくを、避けながら、半之助は快さそうな、期待の微笑をうかべ、岩の食卓の左右に、自分で編んだらしい、蒲の円座を置いた。

いま飛び去った方向から、やがてまた、小鳥たちの、やかましい声や、羽音が、しだいにこちらへ戻って来た。灌木の枝の折れる音がし、「だめだめ、うるさいわよ」などという、女の、あまい叱り声が聞えた。

明るくなるにしたがって、たちこめた霧が、まるで眠りからさめでもするように、少しずつ揺れだし、樹の間に濃淡の縞を描いて、山の高いほうへと、ながれ始めた。