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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

先年までは、犬千代という強敵が居、消極的に、失恋を待っていたら、とても勝目はないので、あらゆる智慮と熱情をもってそれと闘ったが、もう自分の恋を脅威する相手は、

(寧子をたのむ)

といって国外に去り、その後、桶狭間の合戦の後、ふたたび御勘気をゆるされて、城内へ帰参してはいるが、もう以前のように、この家へ近づいているふうも見えないのである。又右衛門が苦にしていた問題の「犬千代との結婚の口約」なるものも、自然解消のままになって、今日では何の憂いもない筈のものになっている。

「焦心る必要はもうない。今はそッとしておいて、又右衛門の気もちが、もう一歩、好転するなり、よい口ききが、他から現われるのを待つのが上策」

藤吉郎は、その辺、心得ぬいていた。――しかし、寧子のことに限っては、彼のそうした賢い思慮と、彼の愚かな垣覗きの心理とが、一箇の彼という中に、べつべつに働いていた。

蚊遣の煙がながれている。台所のほうでは瀬戸物の音が聞える。まだ夕餉も前らしい。

「オオ、働いてござるな」

藤吉郎は、やがて、わが宿の妻ときめている寧子の影を、仄かな明りのさす台所の辺りに見出して、