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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁

青空文庫

息子は退ってゆく。そして隠居所の裏を見まわした。黒々と牡丹の叢咲きしている前に、海北友松は、ぽつねんと、膝を抱いて、眺め入っていた。

すこし後から斎藤利三がそこの柴折門から出て行ったとき、もう息子も友松もいなかった。

利三は、実はすこし気懸りになり出していた。主君の帰りが遅すぎる。祝賀の大宴なので、ずいぶん今日は盛会だろうし、長くもなろうとは察しられたが、

「……それにしても」

と、やや不安に似たものを覚え出していた。

旧い茅葺門を出ると、道はすぐ湖畔の街道に出る。諏訪湖の西空にはまだ残照が仄明るい。内蔵助利三は、街道の彼方へしばらく眼をすましていた。

案じていたほどのこともない。やがて彼の主人はこなたへ向って来る。馬、槍、従者などの一群を従えて。

けれど、その影が近づくにつれて、内蔵助利三の眉には、やはり不安に似たものが去らなかった。なぜならば、どこか常とはちがう気がしたからである。

戦勝の祝宴から帰って来たひとの姿とも見えないのである。颯爽と馬上にゆられ、その従者たちも、きょうは賜酒の酔に、華やいでいるはずなのに、悄然と、その光秀は、徒歩で来る。