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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁
火も涼し
大将は三位中将信忠と聞えたが、
「すぐ部署につけ」
と数千の兵を分けて、包囲にかかった直接の指揮者は、麾下の河尻肥前守だった。
目標は、恵林寺だった。
けれど、山林一里四方、境内一万六千余坪の寺内である。ほとんど、村全体をつつむほどな大掛りにならざるを得ない。
包囲は即日終った。
黄昏れである。選ばれた四名の御成敗奉行人が、くつわを並べて山門へ向った。
織田九郎次、長谷川与次、関十郎、赤座七郎右衛門などである。それに部下の兵若干とはいえ、鉄砲や素槍をたずさえ、それらの兵は甲州全地を蹂躪して、皆どこかで鮮血を味わっている、いわゆる常ならぬ殺気の持主だった。――あわれあの衆が山門をたたいた果てはどうなるのか――と村の人々は戸のすき間や壁の蔭からのぞいていた。
奉行人四名は、
「おらんのかッ。誰も」
本堂に上がってどなっていた。
地内はいわゆる七堂伽藍が巍々としていた。七十二門の廻廊、三門、草門、鼓楼、五重の塔など、甲州第一山の名刹たる名に恥じない。けれど、黄昏れの色深く、葉桜や若葉の蔭に、老鶯の啼き迷うのが時々聞かれるぐらいなもので、本堂も洞然、留守のような静けさだった。