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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁

青空文庫

信長としては現職の太政大臣などいう大賓は、わけて陣中、好まぬ荷もつだったにちがいない。

――お目にかかりたい。

この前久からこう改めて云いよこしたので、信長は、彼の存在を急に思い出したような顔して、

「そうそう。まだこの中にいたか」

と、つぶやいた。

輿を降りて、近衛前久は、沓の運びも雅びやかに、長い軍列の遥か中ほどから此方へ歩いて来た。

兵、旗本、諸将、みな最大の礼と静粛を姿勢にとった。けれど信長は、馬から降りもしない。

「やあ」

と、鞍の下へ来た前久を至極あっさり迎えて、何か? と問うような眼をみはった。

諸人環視の中なのに、その眼を見ると、前久は、つい要らざることをしてしまった。馬上の人に対し、その無礼をとがめもせず、却って自分のほうから笑顔や会釈をして話しかけたことである。

「右府には、富士見物をしながら東海道を経て、安土へ御凱旋とうけたまわるが、予も共々、同道してよかろうか。何のおさしずもなきまま、これまで軍に従いて参りはしたが、いっこうわれらの身まわりは、かもうてくれる者もない」

待遇がおもしろくないらしい。不平を訴えに来たものだ。

信長は訊き直した。