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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁

青空文庫

思わず舌打ちが出た。自分が楽しもうとするとき、自分の眷族のなかに、ひとり楽しまぬものがあることを知ると、信長は、つつがない五体のなかに、ただ一本痛んでいる歯みたいに、気にかかって、楽しむ心の邪魔になった。

――が、そのとき、彼の行くての先に、わあっという頗る大らかな喊声がきこえた。今朝、暗いうちに、道筋の先駆をして行った小姓衆が、各※(二の字点、1-2-22)、若駒にまたがって、裾野の広さを吾がもの顔に駈け廻り駈け廻り、責め馬しているのだった。

「やりおるな」

信長はにことながめて、

「この広い天地へ出ては、魚のように、鳥のように、人も振舞いたくなるの。いで、予も一鞭」

つぶやいていたかと思うと、信長は衝動的に、いきなり鞭打って駈け出した。道案内の徳川家の諸臣、まわりの旗本、諸大将以下、行軍のものすべてを置去りにして、ただ一騎、十方碧落のうちへその影は、一羽の小鳥の如く溶けて行った。

「あッ」

「あれ」

驚いた人々は、口をあいたまま、あっけにとられていたが、しかしまだ平常の謹直と、裃を着た気持から解かれることなく、

「駈け続きましょうか」

「いや、それも」