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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁
「土匪か? 今のは」
「――らしいぞ。油断あるな。この大竹藪のうちに立ち廻っているとみえる」
「三十郎。何ともないか」
「なんの、野伏りどもの竹槍などに」
「構うな。いそげ、ただいそげ。構うてはうるさいぞ」
「……が、お館は?」
と見まわして、
「や。あれに」
と、人々は何か急に愕然と色を失った。
つい百歩ほど先に、光秀は落馬していたのである。しかもただならぬ唸きと苦悶に身を曲げて、ふたたび起ちも得ぬ容子であった。
「殿。お気を慥と遊ばして下さいッ」
「お館ッ。お館……」
「もう少し参れば山科です。お傷もさして深傷ではありませぬ」
「お心をたしかに」
すでに馬を降りて駈け寄っていた明智茂朝や比田帯刀などは、光秀を抱き起して、こう励ましながら、強ってでももう一度駒の背に掻い上げようと試みていた。
――光秀はすでにその意志もないようだった。ただわずかに顔を横に振っていた。
「あッ。如何あそばしましたか」
三十郎、与次郎、作左衛門など皆、われを忘れてそこに影を重ね合った。そして苦しむ光秀の唸きと人々の長嘆と、また嗚咽に似た声とが辺りに流れた。
空には、月一つ、そのときばかり殊さらに冴えていた。