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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁
勝者の一族たる場合は、よくぞ武人の妻にとあらためて思うほど曠れた幸にもつつまれるが、ひとたび敗者に立ったときの――わけても居城を逐われて落人になったときの――惨たる姿と心根とは、平常、野に働いたり、町に物を商っているものには、到底、想像もできないみじめさであった。
その日から食には飢え、野伏りや敵の斥候に脅かされ、暮れては雨露のしのぎにも困り、明けては血にそんだ白い足をたがいに励まし励まし逃げるのであった。
ただこういう辛酸のなかにも毅然として失わないものは、
(もし敵に囚われたら)
と、そのときの一つの覚悟と、
(時あれば、ふたたび、敵にものみせて)
と、ひそかに誓うやがての意気であった。不屈な女の一心だった。平常の臙脂や黒髪のうるわしさも、もしこの日にしてその芳香を心から発するのでなければ、ただ醜しさをかくす似而非のものと、女と女のあいだですら蔑み、卑しむ気風があった。
野瀬の部落は絶好な避難所であった。遠く哨兵を立たせておけば、まず敵の急襲にあわてる惧れはない。真夏なので、夜の具、食糧なども、何とか間に合う。
ただ佗しさは、余りに人里と隔絶されているため、以後の世情が皆目知れないことであった。