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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁
それらの者がみな水漬いた城壁の破れ目や、屋根の上や、狭間や小高い所などから、声こそ揚げないが手をあわせ、眼を拭いつつ、見送っていた。
長年その人に仕えて来た家中の将士にいたってはいうまでもない。みな断腸の思いを嚥み、眼には悲涙を沸らせていた。為に、彼方へ遠ざかる舟の影すら、涙にかすんで熟視していられなかった。
――しかし、舟と人とは、うらうらと、さも長閑けき途のように、雲の影の映っている静かな水面を漕ぎすすんでいた。
振り向くと、高松の城は、かなり後になった。ちょうど、蛙ヶ鼻と城との中間あたりと覚しき所まで来ると、
「七郎。この辺でよかろう」
と、宗治の兄の月清入道がいった。難波七郎次郎は黙って櫓を上げた。
待つ程もなく。
この舟が城を離れたとき、同時に対岸の蛙ヶ鼻からも、一艘の舟が湖心へむかって漕ぎ出していたのである。それは秀吉の陣から派せられた検使舟であることはいうまでもない。目印には舳先に赤い小旗を立て、舟にも緋の毛氈が布かれ、中央に武者三名ほど坐っていた。
検使の将は堀尾茂助吉晴であった。吉晴のみ陣羽織を着ていた。
白い死装束の人を乗せて漂い待つ小舟と、紅の小旗をひるがえした検使舟とは、ようやくいま、この満々たる水上の中心で相会おうとしていた。