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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
「義姉さんはきれいなひとだっただろう」
まだ若い、化粧もしない顔、もんぺに包まれたすべすべした姿体、それだけが幻の風景の中に動いて、五郎の内部の病的な情念を刺戟した。丹尾はそれに答えず、運転手に声をかけた。
「ちょっとここらで停めて呉れないか」
車が停って、二人は降りた。つづいて運転手も。丹尾は掌をかざして、あちこちを見廻した。やがてカメラを取出した。映画などで見た特攻隊の若い未亡人の姿を想像しながら、五郎は訊ねた。
「その時義姉さんは、いくつだった?」
病院の二階の突き当りに、付添婦たちの詰所があり、炊事所や粗末な寝所があった。その手前に梯子段があって、物干台に通じている。五郎が入院して一週間後、梯子を登ろうとすると、台上に二人の姿が見えた。一人は大正エビで、片手を頬に当てて泣いていた。夕方なので、逆光の中の輪郭だけが見える。二重に見える。大正エビをなぐさめているのは、看護婦であった。すすり泣きは断絶して聞えて来たが、会話の内容は判らなかった。五郎は高い台での展望を求めて来たのだが、段の途中で足が動かなくなる。なぜ大正エビが泣いているのか。家に戻りたいとでも言っているのか。