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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
白い花
豚脂をふんだんに使って、ぎとぎとし過ぎていたけれども、空腹には案外うまかった。二十年前は物資が乏しく、こんな店もなかったし、鰹節も干してなかった。貧寒な漁村であった。しかし彼はその頃鮮烈な生のまっただ中にいた。丹尾も箸を動かしながら言った。
「今日はここに泊るんでしょう」
「多分ね」
「ぼくと同宿しませんか」
丹尾は五郎を上目で見た。
「立神館という宿屋があった。あれがよさそうです。出ましょうか」
丹尾はチャンポンを、半分ほど食べ残し、立ち上った。
「ぼくはその前に、映画館を一廻りして来ます。あんたは?」
「そうだな」
五郎は答えた。
「海でも見て来ようかな。いや、その前に床屋にでも――」
五郎はそう言いながら、丹尾の顔を見た。
「君もその鼻髭、剃ったらどうだい。あまり似合わないよ」
「あの日から剃らないんですよ」
左の人差指でチョビ髭をなで、丹尾は沈んだ声で言った。
「髭を立てたんじゃない。その部分だけ剃らなかっただけだ。記念というわけじゃないけどね」
白い花
床屋に行く気持は、初めから全然なかった。丹尾の後姿がかなたに遠ざかると、五郎は身をひるがえして酒屋に入り、万一の用にそなえて、酒の二合瓶と紙コップを買う。